歯科・口腔外科の設立の目的
お口の健康管理と
安全な「食」の提供
お口の健康が全身の健康に影響することは広く知られています。しかし、全国の病院で「歯科」の標榜がある病院は約10%しかなく、入院期間中に適切な歯科治療、口腔ケアが受けられないのが現状です。
当院の歯科・口腔外科では、地域中核病院の特性を活かし、「チーム医療で“食べる”にとことん向き合う」をコンセプトに急性期・回復期・療養(医療)から生活期・維持期(介護)までを包括的にアプローチいたします。
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なぜ開設が必要だったのか?
従来から医科歯科連携の重要性が謳われており、病院歯科は多職種と連携をし、入院患者様の感染予防や「食」への対応が必要とされています。われわれは、歯科標榜のない地域中核病院に歯科・口腔外科を開設しました。設立の経緯、活動状況、今後の課題と展望について論文を作成いたしましたのでご一読ください。
論文を読む
当科は、口腔由来の感染予防と、安全な「食」を提供する目的で開設されました。活動内容は、感染予防の徹底、口腔衛生管理の評価および手技統一を目的として、病院内に口腔衛生管理委員会を設立しました。同時に「食」に対しては、摂食嚥下リハビリテーション充実のため摂食嚥下サポートチームを設立しました。以前は重篤な摂食嚥下障害患者様のみが対象でしたが、摂食嚥下サポートチーム介入により幅広く対応が可能となりました。
今後は、歯科介入が入院患者様の全身状態維持向上へ寄与するための取り組みが必要と考えています。そのためには、歯科が中心となり、より多くの知識を病院全体へ発信することが期待されています。 -
これまでの実情について
歯科・口腔外科は、口に起こるさまざまな疾患について診断・治療をする診療科です。“病は口から”と言われています。口腔内が不健康だと、細菌が増殖して誤嚥性肺炎や感染症心内膜炎、敗血病といった二次感染のリスクを高めるからです。また、咀嚼や嚥下の機能、せきをする力が衰えると、今度は食物・逆流した胃液が誤って気管に入り、誤嚥性肺炎のリスクにつながります。
臨床現場に目を向けると、入院患者様の過半数は高齢者や要介助状態の方で、口腔内のセルフコントロールが困難な状況です。それにも関わらず、開設3ヶ月前の口腔内スクリーニング検査では、約6割の患者様に口腔管理が必要なことが明らかになっています。歯科が介入し、継続して歯や口腔を清潔にしておくことは、口腔由来の疾患が解決できるほか、プラークや嚥下機能が原因で起こるさまざまな病気の二次感染を予防することにもなるのです。歯科・口腔外科では、各病棟スタッフや医療チームと連携をとり、入院患者様の口腔機能の維持・回復を図り、健康に食事できるよう支援することを目的に活動しています。 -
2つのチームを発足し院内でのトータルサポートが可能に
医師や専門スタッフとのチーム医療も積極的に行っており、病院歯科の特性を生かした横広がりのある治療に重きを置いています。その中心にいるのが、歯科・口腔外科です。
当科では、口腔内環境の改善が難しい高齢あるいは要介助状態の患者様をサポートするために、「口腔衛生管理委員会」と「摂食嚥下サポートチーム」を発足。「口腔衛生管理委員会」では、口腔チームが口腔内の評価や口腔ケアの手技などを各病棟看護師に指導し、知識・技術の統一を行っています。さらに歯科は「摂食嚥下サポートチーム」の一員として、スクリーニング検査や食事介助技術の伝達、治療が必要な患者様の抽出などにも関わります。院内の各科やリハビリテーションチーム、看護師と連携をとりながら、入院患者様の摂食嚥下機能の回復のために注力しているのです。
このように専門のチームを作り、カンファレンスの場を設けながら口腔に関する問題点や方法を共有することが、症状緩和や二次感染のリスクマネージメントにつながっています。
受診の流れ
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Step01入院中
当科に入院された全員の方にスクリーニング検査を受けていただきます。その内容は、口腔乾燥や義歯のありなし、プラークの状態など、様々な口腔や接触に関わることに関してです。問題があった患者様に対しては、分かりやすい説明と治療に対する同意=インフォームドコンセントを行っています。
「歯科治療は必要がない」と思われている患者様が多いですが、検査結果を見ると約9割の患者様は、当科が介入する必要がある方たちです。
お口に合った入れ歯は、誤嚥性肺炎の予防やリハビリをする上で必要不可欠ですし、お口の環境を清潔にしておくことは、さまざまな病気の予防にもつながっています。 -
Step02退院後
当科では、当院に入院歴のある患者様、もしくは、特養や老健の入所者様をはじめ、当院関連施設に関わりのある患者様、または近医の病院、クリニックよりご紹介いただいた患者様のみ外来受診、もしくは往診を受け付けています。つまり、一般歯科では診断や治療が難しい患者様に対応できるのが当科の強みということになります。
外来受診・往診においても、当院の医師や専門スタッフと協力をしながら、できるだけ多くの疾患に対応できるよう努めています。
入院患者様が回復され、元気になって退院されても、延長で往診をご希望される方が多いのは、歯科が治療はもちろん、食事や生活のサポートまでご提案する当科だからこそです。
よくあるご質問
- Q
なぜ骨折で入院しているのに口腔ケアが必要なの?
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A
骨折部位にもよりますが、骨折をされて思い通りに体が動かないと、歯磨きを後まわしにされる患者様をお見かけします。歯やお口のケアを怠らないことが、二次感染のリスクマネージメントにつながるため、私たち歯科チームが介入する必要があるのです。
- Q
歯がなくても家では食べれていたのに、入院したら入れ歯を作らないといけないと言われたけどなぜ?
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A
“食べられていた”ではなく、“選り好みして食べていた”に過ぎないからです。高齢者の方ほどやわらかく、栄養価の低いものを好まれる傾向にあることも、様々なデータで明らかになっています。また、リハビリでは歯を食いしばる必要があるため、噛み合わせのいい歯は必要不可欠なのです。
- Q
家ではお茶にとろみなんてつけていなかったのに、歯医者にとろみをつけられたのはなぜ?
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A
とろみをつけることで、むせにくくするためです。飲食時にむせると、飲み物や唾液が食道ではなく気管に入りやすくなります。そのとき、飲み物や唾液と一緒に入ってきた口内細菌が肺に到達すると、誤嚥性肺炎の原因になるリスクがあるのです。
- Q
飲み込みの検査をしろって言われた。必ず必要な検査なの?
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A
必要です。飲み込みの検査は、誤嚥性肺炎の予防につながります。入院中に栄養価が下がると、嚥下障害になられる方がいらっしゃいます。放射線検査でのどの動作を可視化し、誤嚥なく食べられる食べ物を見極めるのも、歯科チームの重要な役割なのです。